ネタもないので

まおゆうから名場面を引っ張ってこよう。物語が始まる前、魔王と勇者が出会う前の勇者と弓兵:執事が会話するところ。
いやあ、このシーンは泣けますよね。このあとまた最初から見るとなんか、涙が出てくる(笑)

勇者「……」
執事「……」


勇者「んじゃ」
執事「……」


勇者「えっと、さ」
執事「ええ」


勇者「行くよ」しゅたっ
執事「はい」


勇者「止めないのか」
執事「止めて良いのか、考えているのです」


勇者「……」


執事「わたし達は、あなたに科せられた枷のようなものですから。あなたにとっては、やはり重荷なのか、窮屈なのかとも考えます。そもそも……この際ですから聞いてしまいますがあなたが世界を救う理由は、無いような気さえする」


勇者「……」


執事「聞いて良ければ。……どうしてですか?」


勇者「他にやること無いからだよ」
執事「……」


勇者「だってそうじゃん。魔法使えるし、剣技も使えるけれどさ。こんな化け物、学院でも騎士団でも雇ってくれないよ。どこに行っても歓迎されるけれど、ずっと住んでくれなんて云う村も町もなかっただろう?“有り難いには有り難いけれど、ずーっといられても困っちゃうのよね〜”とか。勇者って、そういう感じじゃん?」


勇者「おれ、頭悪いから、よく分かんないだけどさ。――多分、おれ人間じゃないんだ。だって人間は俺に優しくはないもの。でも人間じゃなかったらなんだろうって考えると、俺ってやっぱり勇者なんだよね。しかたない。人間に生まれたこと無いから、なんで嫌われるかはよく判らないんだけどさ」


執事「……」


勇者「弱いってさ。弱くて一杯いるってさ。すげー暴力的だよ。弱い奴らが不幸になると、それが真実かどうかなんてお構いなしに近場にいる強いやつを一斉に指さして、お前が悪だって言うんだ。そんでもってそれに抗議をすると、“ほら、やっぱり私たちを責めるんだ! こいつは悪だ!”って大喜びしてさ。そう言うのってすごい暴力的だ。そういう意味では、俺はたしかに、救う理由なんて無いけどさ」


執事「……はい」


勇者「でもさー、やっぱりさー」
執事「……」


勇者「全部を嫌いになるのは、無理」 にかっ
執事「……」


勇者「だって、みんな健気なんだもん。優しいし、温かいしさ。ただ、そういうのが、俺に向かってないってだけでさ。基本的に人間は良いやつばっかりだ。じいちゃんが、最後には帳尻があったって言ってたけれど幸せだけなんてないんだよな。たぶん、帳尻が合うだけ。全てはモザイク模様で、白と黒とのコントラスト。白だけとか、黒だけとか、そういう手に入れ方は出来ないんだな。たぶん“全部もらう”か“全部要らない”かしか選べないセットメニューなんだよ。……だから、俺がどんなに辛くても、誰かにとっては大事なこの世界は、壊しちゃいけない」


執事「勇者……」


勇者「爺さんとか、あの二人と一緒にいるとさぁ」
執事「……」


勇者「なんか、人間みたいな気分で、楽しいわけだ」てへっ
執事「……」


勇者「だから倒してきてやるよ。魔王を。それくらいの幸せは、受け取った」


執事「……」


勇者「それにさ。やっぱ、もてたい訳よ」
執事「そう、ですか……」


勇者「童貞だから」
執事「童貞ですからね」


勇者「期待しちゃう訳よ」
執事「そりゃしますな。期待こそ青春ですから」


勇者「だから」
執事「?」


勇者「そのうち、なんつーか。ほらよ、なんつーかな!」
執事「はい」


勇者「“わたしのものになってくれ”なんて云ってくれる人が……俺にだって現われるかも知れないじゃん?魔物殺すのと都市壊すのくらいしかできないけどさ。俺は人間じゃないから、仲間はずれだけどさ。そんなのは、俺のセットメニューに入ってないなんて判ってるんだけれどさ。そう言うこと云ってもらえるのは、人間なんだろうなって。――でも、そういうの、期待しちゃうんだよ。馬鹿だから」