また特にネタもないので

まおゆう名シーン引っ張る。いや、この作品って非常にシンプルだから実は名シーンしかなかったりするのだよ。凄いよこれ。
今回は物語の超序盤、メイド妹とメイド姉の初登場シーンですね。特にメイド姉は最終的には勇者になってしまうキャラなんだが、スタートはここなんだよね。このシーンがあるこそ、なんだよね。



姉「おねがいです、つうほうしないでください。いえ、そうじゃなくて」
妹 じわぁ


姉「にげますから。ほんのすこしだけ。よあけからすこしのあいだだけ、まってください」
 

ガチャリ


メイド長「何を言ってるんですか。ろくな靴もない。服も最低限。お金も道具も何もない。街へ行って乞食でもやるつもりですか?」


妹「あ、あぅぅぅ」


勇者「どうにか……。どうにかなんないのか?」


メイド長「なりません。奴隷の生活は惨めですよ。何も出来ない。何の希望もない。自分自身の罪でそう居続けるしかできないと自分で自分に言い聞かせながら生きてゆくのです。この世の地獄かも知れませんね。でもね」


姉「……」


メイド長「やっていることはメイドと代わりはありませんよ。主人の意を受けて、主人の言葉なら何でもしたがう。主人の夢を叶えるため、そのために命を捧げる。奴隷とたいした違いは有りはしません」


魔王「メイド長。私はお前を奴隷だなどと思ったことは有りはしないぞ」


メイド長「ええ、まおー様。私もそのような扱い、まおー様より受けた覚えはありません。でもだからより一層、正視に耐えません。私と同じ仕事をしながら、自らの手に運命をつかむことの出来ないその弱さは、灼かれて死んで償うべきかと思います」


妹「ちがうよっ!! ちがうもんっ!」


妹「ちがうよっ、めがねのおねえちゃんはいじわるなのっ。わたしたちはちゃんとにげてきたもんっ。なにもできないわけじゃないもんっ。みやこにいって、ふたりで、くらすんだもんっ」


勇者「……それは」


メイド長「何を夢物語を」


妹「でも、やるんだもんっ」


メイド長「百歩譲ってその熱意を努力と呼んでも良いでしょう。しかし、それをなすに当たって他者の家に忍び込み、あまつさえその厚意にすがり。そればかりか寝床と食事を与えてくれたその他者の立場を逃亡によってさらに悪くする。そのような方法を是とする。それがあなたたち農奴のやりようですか?」


妹「だって、だってぇ!」


メイド長「もう一度云います。自分の運命をつかめない存在は虫です。私は虫が嫌いです。大嫌いです。虫で居続けることに甘んじる人を人間だとは思いません」


姉「……」


メイド長「判りましたか?」


姉「はい……」


メイド長「謝罪を」


姉「このやかたのみなさま……きぞくさまにはご、ごめいわくを、かけました。ごめんなさい」


メイド長「よろしい」


姉「……」


妹「ひっく……う。うううぅ」


メイド長「……」 じぃっ


姉「……」


メイド長「……それだけですか?」


妹「やぁ……。もどるの、やだよぅ……こわいよぉ」


姉「……いもうと、しずかにして」


メイド長「……」


姉「わたしたちを、ニンゲンにしてください。わたしは、あなたがうんめい、だと――おもいます」


メイド長「頭を下げる時はそのように這いつくばってはいけません。せっかくスカートをはいているのですから指先で軽くつまみ、ドレープを美しく見せながら優雅に一礼するのです」


姉 ぺ、ぺこり


メイド長「……魔王様。この館は魔王城に比べれば掘っ立て小屋も同然ですが私1人ではいささか手が足りません。メイドを雇ってもよろしいでしょうか?」


勇者「いいのかっ? メイド長。あんなに嫌いだっていってたのに。許してくれるのかっ?」


メイド長「嫌いなのは虫です。メイドを嫌う人はこの世界に存在しません。たとえそのメイドが新人であってもです」


魔王「許す。鍛えてやってくれ」